medel store

2022/04/11 16:13

美しい木目に、遊び心のあるフォルム。猫たちが心地よく過ごせる家具である“medel〈メデル〉は、同時に飼い主の暮らしも豊かにしてくれます。設計事務所 ima の小林恭さん・マナさんのデザインを元に製作したのは、飛騨高山で100年以上の歴史を持つ木工家具メーカーの飛騨産業。これまでなかった新しい猫家具が生まれた裏側を教えてもらいました。

 

(会話者紹介)

お話してくれた人:飛騨産業株式会社 デザイン室 植木つかさ

実家では今まで、インコやハムスター、犬など常に動物がいる生活をしてきた。ペット用の家具を主に担当している。

 

お話を聞いた人:ライター/小林百合子

保護猫と暮らす大の猫好き。山や自然、野生動物にまつわる書籍を多く手がける。著書に『いきもの人生相談室』『山小屋の灯』(山と溪谷社)など。

 


100 年前から続く、手仕事による木工家具づくり。

 

小林百合子:惚れ惚れする佇まいの“medel〈メデル〉。その魅力はなんといっても天然木の持つ温かみと、洗練された造形にあると思います。100年以上前から木工家具を作ってきた飛騨産業さんだからこそ作れたプロダクトだと感じるのですが、まず初めに、会社の歩みを教えていただけますか?

 

植木つかさ:飛騨産業は大正9(1920)年に創業しました。豊かな原生林を育む山に囲まれた飛騨では、飛鳥時代から奈良や京都の寺社仏閣建築の担い手である「飛騨の匠」と呼ばれる職人集団が生まれ、木に対する心と技を今に受け継いできました。

 

小林百合子:匠の心が息づく土地なんですね。

 

現在も豊かな自然が残る飛騨高山。飛騨産業の本社と工場は、山々に抱かれるようにしてある。



植木つかさ:飛騨産業が家具づくりを始めた当時、飛騨高山にはブナの原始林が広がっていたのですが、ブナは硬いうえに腐りやすいとあって、加工に適さない「無用の長物」だと言われていたんです。そんな中、創業者たち地元の有志がドイツで行われていた曲木家具づくりを取り入れ、それまで使い道のなかったブナで家具づくりを始めました。それが飛騨家具の始まりで、次第に全国で知られるようになりました。

 

小林百合子:100 年前の SDGs ですね!

 

植木つかさ:山というのは、ある程度人が手を入れて間伐しないと、植物の新陳代謝や循環が止まってしまって、やがて死んでしまいます。地産地消で地域経済を活性化すると同時に、山を健康に保ち、持続可能な環境を作るためにも、国産の木材を作ることはとても大切だと思っています。ただ、量がたくさん取れないので、現在は外国産の木材を主に使っていますが、将来的にはできる限り国産かつ地場の木を使っていきたいと思っているんです。

 

小林百合子:“medel〈メデル〉に使われているのはどんな木なのですか?

 

植木つかさ:国産のクリを使っています。日本のクリの木は古くから人々に親しまれ、重宝されてきた木材です。粘りがあって水に強いクリの木は縄文時代から建物の土台に使われ、鉄道の枕木としても活躍していました。はっきりとした木目が特徴なので、“medel〈メデル〉でもそれを生かしています。

 

小林百合子:素敵な猫家具を使うことで、間接的であっても日本の森を元気にするお手伝いができるなんて、すごく素敵だと思います。


medel〈メデル〉に使われる国産のクリの木。ひとつとして同じ木目がないのが、天然木の魅力。



老舗の家具メーカーが猫家具を作ったワケとは?

 

小林百合子:すごく素朴な質問で恐縮なのですが……。長い歴史を持つ木工メーカーである飛騨産業さんが猫家具を作ったと聞いて、正直驚きました。どういうきかっけで開発に乗り出したのでしょうか?

 

植木つかさ:じつはこれまでにもペット用のプロダクト開発・製作をしたことがありまして。それをさらにブラッシュアップさせる形で、今回、デザイナーの小林恭さん・マナさんと猫のための家具に挑戦してみようと思った次第です。

 

小林百合子:どうして今回のような猫家具を作ろうと思ったのですか?

 

植木つかさ:市場の猫家具は可愛いものも多いですが、インテリア性やデザイン性が高いものがなく、またそのデザインで部屋の印象が大きく変わってしまいますよね。

 

小林百合子:じつは我が家にも猫がいるのですが、おっしゃる通り、部屋の雰囲気を壊さないデザインの猫家具がなかなか見つからなくて……。

 

植木つかさ:まさにそのお悩みを解消したくて、難しいことは承知で彫刻のような美しい猫を愛でるための台に挑戦することにしました。覚悟はしていたのですが、色々な壁が立ちはだかりまして……、苦労の連続でした(笑)。

 

小林百合子:一番大変だったのはどんな点でしたか?

 

植木つかさ:安定性ですね。猫が勢いをつけて飛び乗るものなので、その反動で“medel〈メデル〉が倒れたり、ぐらついたりしては危険です。猫はもちろん、小さなお子さんがいるご家庭では大きな怪我につながることもありますから、安全面は一番大切にしました。

 

小林百合子:“medel〈メデル〉は高さが 90cm と低めですよね。これは安全面を考慮してのことなんでしょうか?

 

植木つかさ:じつはこの高さはデザイナーの小林恭さん・マナさんのこだわりで、一番上の座面に猫が座ると、立っている人がすごく撫でやすいんです。猫がくつろぎの時間を過ごせつつ、人とのコミュニケーションも取れるよう、緻密に計算された高さになっています。また、運動音痴の猫さんや、老猫でも登れる高さになります。

 

小林恭さん・マナさんによる“medel〈メデル〉の設計図。天板の高さやステップの位置など、長年猫と暮らしてきた経験を元に、ベストな形を求めた。



人間が座ると、天板の上の猫とちょうど目が合う。「人と猫をつなぐちょうどいい高さ」を追求した。



人を想うのと同じ気持ちで、猫も想う、飛騨産業のスピリッツ。

 

小林百合子:高さが 90cm といっても、やはり安定性に関しては気を使うものなのですか?

 

植木つかさ:はい、もちろんです。人間が使う家具の場合、製品化するにあたって一定の強度基準をクリアする必要があるのですが、猫の家具にはその基準が存在しません。ぐらつきや転倒もそうですが、そもそも家具として長く使えるのか、そこを測る基準がないので、これはもう自分達で強度試験をするしかないと。

 

小林百合子:おお、それは大変だ……。

 

植木つかさ:そこで岐阜県の生活技術研究所という公的試験機関にお願いをして、猫が飛び乗るときの荷重がどれくらいなのか、もし人間の子供が“medel〈メデル〉に登った場合はどうなるのかなどを算出していただき、とにかく徹底的に安全面をチェックしました。私たちも研究所の方が探してくださった過去の猫研究の論文を読んだり、たくさん勉強しましたね。

 

小林百合子:そこまで徹底的に安全面にこだわるのは、業界としても珍しいことではないでしょうか。

 

植木つかさ:そうですね。公的な基準がないので、そこまでやる会社さんは少ないかもしれません。でも、やっぱり猫も人も安全が第一ですから、不可欠なステップだったと思います。

 

小林百合子:安全面以外でも地道な努力があったのですか?

 

植木つかさ:どれだけ安全で美しい“medel〈メデル〉を作っても、猫が使ってくれなかったら意味がありませんので、とにかく多くの猫さんたちのご意見を伺いました(笑)。

 

――なんと!社内に猫語のバイリンガルの方がいらっしゃるとか?

 

植木つかさ:だといいのですが(笑)。実際は保護猫カフェに試作品を持ち込んで、猫たちの反応を何度も見させていただきました。最初はなかなか真ん中の天板に乗ってくれなくて、ちょっと棚板を大きくしたり。飛び乗っても少しぐらつきがあるなと感じたら、棚板の位置を調整したり。微調整を繰り返して、猫たちが「登りたい!」と思う形に近づけていきました。


左/独自で行った強度実験。右/保護猫カフェでモニター中。試作を重ね、ようやく猫さんたちの「いいね!」をいただいた瞬間

 


小林百合子:たくさんのユーザーの声が反映されているんですね。

 

植木つかさ:使う人に心を寄せてこそ、これまで培ってきた技術力が輝くのだと思っています。猫家具においても、それを使う人と猫、両者のことを最大限想うということを何より大切にしたいと考えていました。

 

小林百合子:言葉が通じない相手のことを想うというのは、とても大変なことだと想像します。実際に手を動かす職人さんたちの反応は、いかがでしたか?

 

植木つかさ:初めて作るものなので、もしかしたら戸惑うかなと思っていたのですが、そこは職人魂と言いましょうか。初めての経験だからこそ、面白がってくれる方ばかりで、一緒になってあれこれアイデアを出してくれました。図面段階から色々と相談に乗ってもらって、一丸となって製作に取り組むことができました。

 


匠の技が生んだ、どこから見ても美しい造形。


小林百合子:“medel〈メデル〉の特徴といえば、なんといってもその美しい造形です。円柱と円板、円錐の木材が組み合わさった彫刻のようなフォルムは、かなり作るのが大変そうに見えます。

 

植木つかさ:このフォルムもデザイナーの小林恭さん・マナさんがこだわった点です。家具そのものとしても美しいのですが、天板に猫が座ると“猫彫刻”のように見えるんです。「猫を愛でる」という飼い主さんの歓びを存分に味わってもらうために欠かせないデザインなので、これをいかに忠実に形作るか、職人はミリ単位の調整を何度も行っていました。

 

小林百合子:触ってみるとわかるのですが、とにかく手触りが心地いいんですね。滑らかで、しっとりしていて。猫たちもさぞかし気持ちいいでしょうね。

 

植木つかさ:そこもまさに職人技の成せる技で、一台一台、最後は人の手で磨き、仕上げているんです。飛騨産業の家具づくりでは要所要所に機械を使いますが、100%オートメーションで作ることはありません。先ほど木目が美しいとおっしゃっていただきましたが、金属と違って木はそれぞれ個性があって、例えば木目に逆らって削るとささくれができたりします。その辺りはやはり職人が目で見て、最適な加工を施さなければこれほどスムースな仕上がりにはなりません。

 

木の個性を見極めて、ベストな加工を行う。飛騨産業の工場では、機械と人が力を合わせて家具作りを行なっている。

 


小林百合子:まさに匠の目と技ですね。

 

植木つかさ:“medel〈メデル〉に使っているクリの木は、じつは他の家具を作った後に残る小さいパーツ、つまり未活用の短材や幅の狭い材なんです。これまで家具用規格としては小さかったパーツを集めて使っているのですが、どう接着して使えば強度が出て、見た目にも美しくなるか、そこにも職人の確かな技が生かされています。

 

小林百合子:そうだったんですか!猫と人に優しいだけでなく、森にも優しいプロダクトなんですね。

 

植木つかさ:未活用の短材や幅の狭い材といっても、素晴らしい天然木です。限りある天然資源を余すことなく使いたいという長年の想いを、この“medel〈メデル〉が叶えてくれました。そういう意味で、私たち作り手にとっても優しいプロダクトだなと思います。

 

小林百合子:三方どころか、四方よし、ですね。

 

植木つかさ:飛鳥時代から続く匠の技と心を受け継ぎ、森と一緒に生きていく。そうやってみなさんの暮らしに迎いれていただいた家具が、また長く時を継いでいく。“medel〈メデル〉もそんな存在になれたら嬉しいですね。

 

小林百合子:大切な家具を子どもや孫に受け継ぐように、“medel〈メデル〉も自分の子どもや、今飼っている猫ちゃんの次の猫ちゃんなど、世代を超えて愛していけるものになれば素敵だなと思います。

 

植木つかさ:クリの木は時間が経つとともに色味が落ち着いて、また違った風合いが出てきます。その変化は、猫ちゃんや家族と一緒に過ごした時間の証だと思いますので、愛着を持って使っていただけるんじゃないかと思っています。

 

小林百合子:椅子やテーブルなどの家具だと猫のひっかき傷ができると「あーあ」と思いがちですが、“medel〈メデル〉に関しては、その傷跡さえも「愛おしい」と思えるかも(笑)。猫と一緒に楽しく育てていく家具、ぜひたくさんの家族に使ってもらいたいですね。



商品名:猫家具 medel〈メデル〉
価 格:¥187,000(税込)
サイズ / 塗色 / 材質:W46×D60×H90(cm)18.2kg / NY色(ポリウレタン樹脂塗装)/ クリ

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プロフィール

設計事務所ima

1998年に活動を始めた、小林恭(こばやし・たかし)と小林マナ(こばやし・まな)夫妻のデザインユニット。<マリメッコ><イル ビゾンテ>などの店舗デザインを手掛ける。近年はペットにまつわるプロダクトデザインも取り組む。写真は、2016年に設計・完成した自邸で事務所の「井の頭ハウス」で撮影した。
http://ima-ima.com/